DTMにおける音楽制作は負荷との戦いでもあります。
高音質なソフトウェアやプラグインはたくさん使いたいですが、無計画に使えばあっという間に負荷は上限を超えて、プロジェクトの動作は不安定になり音質にも悪影響をもたらします。
今回は、快適かつ高音質な音楽制作を実現するためのコツを紹介いたします。
作曲、アレンジの工程では「軽さ・使いやすさを重視する」
高負荷のソフトは音質が良い反面、使い方によっては致命的なデメリットをもたらします。
- ロードや処理に時間がかかり、作業スピードを大きく低下させる
- オーバースペックな処理は、それ自体が音質に悪影響。書き出しもわりとミスります。
- 作業効率の低下により、クリエイター自身の判断能力が低下、トライアンドエラーの回数も減る
つまり「負荷やスペックに制限された制作は、クリエイターの創造性を著しく失わせる」と断言できます。
DTMでの音楽制作は、音質だけでなくクリエイター自身のパフォーマンスを高く保つことも重視しなければなりません。
作曲やアレンジの工程では、アイデアに対しての瞬発力が最も重要になります。
PCのスペックを高く保つのがベストですが、ご自身の制作環境をふまえて、作業スピードに悪い影響を与えないソフトを優先して使用しましょう。
アレンジ用の便利で低負荷なツールと、音質重視のツールをあらかじめ用意しておくのがオススメ。
総合音源では「Garageband標準音源」「Xpand 2」などが低コストかつ音馴染みがよく、アレンジ工程でも使いやすくてオススメです。
高負荷・高音質なソフトを使いまくってトラックバウンス
DTMの中で私がオススメするのは「トラックバウンスの活用」
簡単に説明すると、アレンジ中に作業の終わったトラックは、どんどん書き出して置き換えていけば、プラグインのインサート数は減り、プロジェクトはみるみるうちに軽くなります。
でもそれじゃあ、打ち込みや処理内容に変更が必要になった時はどうするのかって?
書き出す前の段階(アレンジの終了段階)でプロジェクトのバックアップをとっておけばいいだけです。
この手法を活用すると、音楽制作を工程別にとらえることが上手になり、全体の完成イメージをとらえるのが上手になります。
- 作曲、アレンジの構築(低負荷ソフト中心)
- 打ち込みの内容の最終決定、音源の差し替えと調整、アナログエミュを使った音作り
- ②を終了したトラックをバウンスし、差し替え。
- ミックスダウンにおける調整に必要なプラグイン(EQ,Comp,Reverb)系のインサート
- 打ち込み内容に変更がある場合は②のプロジェクトへ戻り内容を再修正
上記のような流れで、それぞれの工程にバックアップを用意します。
この方法なら、①の工程はとても低負荷でスムーズに、②③の工程では高負荷で高音質なソフトを使いまくり、すぐバウンスしてしまえばその後の作業に負荷を引き継ぐことはありません。
④の工程ではミキシングに必要な少数のプラグインなどが残るのみとなり、高負荷なリバーブなどを使用する余力も残すことができます。
リコールの場合、過去のプロジェクトに戻ることは面倒に感じますが、高音質な音源やソフトが使い放題になるというメリットを考えれば、この程度の手間は取るに足らないものです。
オーバーサンプリング対応のプラグインの場合、書き出しの際にだけアップサンプリングを強めにかけるなどでも、通常時の負荷を下げることができます。
※リコール:一度行った処理に立ち戻り、再調整を行うこと
私の環境は8コアとメモリ16ギガとそこそこな環境ですが、アレンジやミックスの工程では必ず上記の工程をベースに作業します。32bit環境でしたら32bit floatでの書き出しを、私はLogicの製作の場合、内部動作が32bitなのに対し32bit floatの読み込みができないので、書き出しの際にディザをいれて、ビット変化による音質変化を防いでいます。
リコールしない癖をつける
DTMが下手な人は高負荷なソフトを常駐的に稼働させており、あっというまにcpuが悲鳴をあげます。
これはDTM製作における「決定を先送りできる」という性質が生み出した性格で、各トラックの完成イメージが明確にないからトラックバウンスができず、ひとつひとつの判断が不明瞭になると曲全体の設計も不安定になります。
そんなやり方では決して良い音楽なんてできっこないです。
ちょっとくらい不安でも「これでいい!」と思ったら勇気を出して書き出してしまいましょう。
前述の作業工程に従えば、バックアップのプロジェクトもあるので大丈夫です。
- 決定する→問題が生じる→リコールor再編集で解決する
上記を繰り返すことで、判断を正しく決定する力が少しずつついてきます。
自分の責任範囲の決定は、誰が何を言おうとすべて自分で行うことが、判断理由を明確にし、作品の質を良くするだけでなく、PCに対しても過剰な負荷をかけなくなるポイントです。
DTMや音楽制作は「判断のゲーム」
DTMが生まれる前のMTRで音楽を作っていた時代は、スペックとの戦いと判断の連続でした。
レコーディングの期間は短いし、一度歌ったり演奏したものを「やっぱりやり直す」なんてことは膨大な手間を弄し、簡単にできることではありませんでした。
それゆえに、彼らは明確な判断のもとにトライアンドエラーを繰り返し、素晴らしい音楽を作ってきたのだと思います。
クリエイティブな作業には直感と、それを表現するスピード、瞬発力が非常に重要です。
音の良いソフト+トラックバウンスもフル活用し、スペックにとらわれない制作を体感してみてください。
「PC重いなあ...」なんて言ってた頃とは別の景色が見えてきますよ。