DTMや音楽界隈で耳にするようになった「ラウドネスノーマライズ」という言葉。
雰囲気はわかっていても、きちんと説明できる人は少ないかもしれません。
「ラウドネスノーマライズ」によるリスニング環境の変化は、マスタリング作業に変化をもたらします。
今回は、ラウドネスノーマライズとマスタリングの関係と対策について解説します。
ラウドネスノーマライズとは
簡単にいうと「自動で音量を基準値に揃えよう」という機能。
基準値はLUFSという単位を基準にするのがほとんどで、主要なストリーミングサービスやYoutubeに代表する動画サービスは、すでにラウドネスノーマライズの機能が搭載され、実施されています。
主要なDAWでも、現在はLUFSメーターが搭載されています。
↑上記はLogicの「Loudness Meter」
Integratedという値が、再生範囲の音圧の平均値。
基準値はプラットフォームによって異なりますが「-15LUFS」前後が基準になることが多いです。
上記レベルを大幅に超えた音源はペナルティーとして音量が下げられ、Spotifyでは逆に音が小さすぎる音源は、音量が上げられるだけでなくSpotify側の用意するリミッターによって音圧調整が行われ、音質にも影響を与えることが公式で発表されています。
なぜラウドネスノーマライズを行う必要があるのか?
これには、動画サイトと音楽ストリーミングのそれぞれに別々の理由があると考えられます。
- 動画サイトにおける「極端な音量の誤差を」減らすため
- 音楽の「プレイリスト再生」における音量誤差を解消するため
どちらも「ユーザーによるボリューム調整を不要とする」ことが目的であり、今後も仕様は進化し続けると考えられます。
純粋に音楽を作る人には意識する必要がない項目に考えられますが、なぜこの機能が問題になるのでしょうか?
「大きい音=良い」の法則が使えなくなる
人には「音が大きくなると、音が良くなったと錯覚する」ブラシーボがあります。
この影響で、メジャーレーベルを中心に、無理にでも音量を上げるようにエスカレートしたのが「音圧戦争」。
これにより、過度に音が大きく作られたマスターはラウドネスノーマライズ上では大きなペナルティーが課され、音量が下げられかつ「音量の代償に犠牲にした音質の悪さ」だけが残ります。
音質の良さを追求した音源は正しくさいせされ、音量によってデフォルメしてきた音源は「音が悪く小さい音で再生される」健全化が行われます。
音が過剰に大きいマスターは非常に平面的なサウンドをしており、「そうしなければならない」と思い込んでいます。
例えば、ビルボードのチャートの音楽と、オリコンのランクインしている音楽をランク毎に比較して見てください。
海外の音楽の音質が非常に繊細で奥行きがあるのに対し、日本のトップチャートの音楽は非常に平面的で、主役ばかりが注目されるサウンドメイクが目につきます。
これは、日本の大手レーベルが、今なお「音量の大きさ」を現場に強いている事実が見て取れます。
新しい時代のマスタリングとは?
まず、マスタリングの一番の目的は「主要なプラットフォームへの音量・音圧の最適化」
ポップスであれば、スピーカーでも、うるさい街中で使用するイヤホンでもちゃんと聴けるように適正な音圧を狙います。
アコースティックとEDMでは音圧のターゲットは違いますし、クラシックであればイヤホンなどでのプレーヤーは想定せず、スピーカーでのリスニングを想定するのが通常です。
「どんな環境で再生されるか」をイメージすることは、マスタリングにおける一つの指針になります。
ペナルティーを過剰に意識する必要はありません。
音量が下がること=音質が悪くなる、ではなく、音の大きさに頼ったミックスをやめるべき、という話ですので、リスニングチェック時に、適正だと感じる音圧、音質、ダイナミックレンジを選択すれば良いだけです。
例えばSpotifyはアルバム再生の際はラウドネスノーマライズは適応されません。
アーティストの音量への判断を尊重するためです。
つまり、アルバムマスタリングにおいてもラウドネスノーマライズを特別にきにする必要はないのです。
良いリファレンスを用意しよう
とはいえ「音の大きいマスター」に慣れている耳の人は、平面的なマスターを良いと感じてしまっているかもしれません。
平面的ではいけない、とは言いませんが、全てのジャンルの音楽が平面的で良い、と考えるのはナンセンスです。
奥行きの必要な作品には豊かなダイナミックレンジを、など、ジャンルに対して適正な判断をする必要があります。
マスタリングには「良いリファレンス音源」が不可欠ですので、さまざまな作品(特に洋楽、良いエンジニアの作品を参照する)を聴いて、良いマスターを経験として記憶することが大切です。
正しい判断は、良い作品を聴いた経験が豊富になければ行うことができません。
アレンジでもエンジニアリングでも「優秀なソースと比較する」という観点を忘れないようにしましょう。